THINX-LAB. 会員様限定記事
ChatGPTが“あなたの脳”に与える影響― MITが明らかにした「AIによる認知負債」の正体

🧩 研究概要

MIT Media Lab(マサチューセッツ工科大学)は、
ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を使うと人間の思考はどう変化するのか?
を脳波(EEG)で検証した。

実験グループ

グループ使用ツール人数特徴
🧠 ブレインオンリー何も使わない18自分の知識だけで執筆
🌐 検索エンジンGoogle検索のみ18情報を探して執筆
🤖 LLM(ChatGPT)ChatGPTのみ18AIに助けてもらって執筆

第4セッションでは、
「ChatGPT→脳のみ」「脳のみ→ChatGPT」の“入れ替え実験”も実施。


🧪 実験方法

各グループはSAT形式のエッセイを3回作成し、
MITの研究者が以下の観点で分析した。

  • 🧠 EEG(脳波)解析
  • 🗣️ NLP(語彙・文体分析)
  • 🧾 記憶テスト・引用テスト
  • 🧑‍🏫 教師+AIによる採点
  • 💬 自己評価・インタビュー

📊 主な発見

① 脳の活動量が減少

AI依存度と脳活動の関係(縦レイアウト) 上から下へ進むほどAI依存が高まり、脳の接続性・学習の深さ・所有感が低下していく様子を示す図。 人間中心 🧠 ブレインオンリー 高い集中・記憶形成 深い学習・高い所有感 AI支援が増える 適度な支援 🌐 検索エンジン利用 中程度の刺激 情報統合・判断力維持 さらなる依存 AI依存 🤖 ChatGPT利用 低刺激・効率重視 表面的理解・記憶低下

上から下へ:AI依存度が高まるほど、脳の接続性と学習の深さ・所有感は低下します。

図:AI依存度と脳活動の関係(MIT研究の要旨を基に作成)

ChatGPT使用時には、脳の神経ネットワーク活動が最も弱まった
集中・記憶・判断を司る領域(アルファ波・ベータ波)が低下。


② 記憶力の低下と「所有感」の喪失

指標ブレインオンリー検索ChatGPT
自分のエッセイを正確に引用できた人89%83%17%
「自分で書いた感覚がある」と答えた人94%78%45%

ChatGPT使用者の多くは「自分で書いた感覚がない」と回答。
脳が“考える必要がない”と判断し、記憶を形成しない状態が示唆された。


③ エッセイの個性が均質化

テキストの多様性(相対比) ブレインオンリー45%、検索エンジン35%、ChatGPT20% の円グラフ。 テキストの多様性(相対比) 45% 35% 20% ブレインオンリー(45) 検索エンジン(35) ChatGPT(20)
図:テキストの多様性(相対比)— MIT研究の要旨を基に作成
  • ChatGPT使用文は語彙と構成が似通う
  • 人間教師からは「きれいだが浅い」「主張が弱い」と評価。
  • AI標準回答に極めて近い内容が多かった。

④ 学習効果は短期的だが、思考は浅くなる

  • ChatGPT使用時のエッセイは文法・構成点では高評価
  • しかし、記憶・理解・批判的思考では最低スコア

MITはこの現象を 「Cognitive Debt(認知負債)」 と呼ぶ。

便利さと引き換えに、“考える力”という脳の資産を借金している状態。


🧭 研究者の結論

「AIは思考を拡張するツールである一方、
使い方によっては思考の筋肉を萎縮させる。」

  • ChatGPTは学習効率を高めるが、
    学習そのものの深度を下げる可能性がある。
  • AIによる「思考の省エネ化」が長期的な認知機能低下を招く。

💡 教育・ビジネスへの示唆

課題提言
学習者がAIに依存しすぎる「AIに答えさせる」ではなく「AIと議論する」デザインへ
記憶・批判的思考の衰退AI利用後に「手書き再構成」「口頭要約」などを組み込む
エッセイや報告書の均質化AI生成文を“素材”として再構築する訓練が必要

🔮 まとめ図

AI支援水準と認知指標の関係(概念図) AI支援が低→高に進むにつれて、脳接続性・所有感・文章多様性が低下する傾向を示す要約図。凡例は下部に配置。 AI支援水準と認知指標の関係(概念図) ※ 主指標:EEGの脳接続性/自己報告の所有感/NLPの文章多様性 AI支援水準 ブレインオンリー 検索エンジン ChatGPT 脳接続性(EEG) 所有感(自己報告) 文章多様性(NLP) AI支援の低 → 高 注:本図は研究結果の傾向を示す概念図であり、実測値そのものではありません。 トレンド(高→低) 代表点(ブレイン/検索/ChatGPT)
図:AI支援水準と認知指標の関係(MIT研究の要旨をもとに作成)

脳の活動はツール依存度に反比例。
自力思考が多いほど、記憶・集中・創造性が高まる


🧠 結語

AIは「考える道具」ではなく、「考えなくても済む道具」になりつつある。

便利さの裏側で、私たちの脳は静かに退化している。
MITのこの研究は、「AIリテラシー」ではなく、“思考リテラシー”を守るための警鐘である。


🧠 感想(𠮷元)

認知負債(Cognitive Debt)って言葉、面白い。

MITの研究が示すように、ChatGPTのようなAIは私たちの認知活動に確実な影響を与えています。
しかし、日々の業務や思索の中でAIを使い続けていると、単に「脳が壊れていく」というよりも、むしろ “同化していく” 感覚に近いものを覚えます。

もはや「脳がChatGPTを使っている」のか、それとも「ChatGPTが脳を使っている」のか、その境界は曖昧になりつつあります。

考えるという行為そのものが、脳の中だけではなく、画面の向こう側にまで拡張されたのだと思います。
ChatGPTを通して思考し、整理し、発想する──そのプロセスは、もはや自分とAIのどちらが主体なのかを問う段階を超えています。

人類はついに、“外部脳”を手に入れたのかもしれません。
MITが提示した「認知負債(Cognitive Debt)」という言葉は、その現象をよく表しています。

それは“考えるコストの後払い”ということ。

ChatGPTは、思考を加速させる“前借りの装置”であり、その返済は、あとで私たち自身の脳が静かに請け負うことになるのでしょう。

効率の裏側で失われていく「考える時間」を、どう再設計するか。
それこそが、AI時代における人間の知性が問われるテーマなのだと思います。


情報源(引用:MIT研究資料)
Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task


タイトル :ChatGPTが“あなたの脳”に与える影響― MITが明らかにした「AIによる認知負債」の正体
発行日 : 2025年10月21日
発行元 : 株式会社THINX
著作名 : 株式会社THINX (データアナリスト 𠮷元 一夢)

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